第4章 抗菌薬使用上の重要点
抗菌薬(抗生物質製剤と合成抗菌剤を含む)を用いて、感染症の病原体を滅殺あるいは
抑制し、その感染症を治癒させることを化学療法と呼んでいる。今日では最も多く利用さ
れているが、その効果を過信し、乱用の傾向にあるといっても過言ではない。化学療法の
功罪を知ることは、正しい化学療法を行ううえに必要なことと思われるので、使用上注意
すべきことを下記する。
1.菌交代現象
作用範囲が広く、そして強力な抗菌薬が利用され、多くの病原体が滅殺、抑制された。
しかしながら一方においては、作用範囲外の病原体、非病原性の細菌などが異常に増殖
し、そのための病状が現われるようになった。これを菌交代現象といい、その疾病を菌
交代症と呼ぶ。代表的なものにカンジダ症がある。
2.薬剤の耐性
たとえば病原体を試験管内で、ある薬剤に接触させながら増殖させると、その薬剤に
抵抗性を持つようになる。また病原体が人から人へと感染していく間に、ある抗菌薬の
攻撃を反復して受けているうちに、病原体は次第にその抗菌薬に対して抵抗性を持つよ
うになる。この現象を耐性を獲得したといい、病原体(細菌)を耐性菌という。
現在、耐性菌として治療上問題となっているものに、淋菌、赤痢菌、ブドウ球菌、レ
ンサ球菌、結核菌などがある。
耐性菌の出現を防ぐために、抗菌薬の選択、使用方法などに十分な考慮を払わねばな
らない。
3.抗生剤の副作用
薬剤アレルギーのほかにビタミンB群の欠乏症がある。ビタミンB群が欠乏すると口
角炎、口内炎、舌炎、下痢などが現われる。また抗生物質の大量投与により、抗体産生
能を抑制することが知られている。
(注)薬剤アレルギー(特に抗生剤によるショックについて)
大部分が薬剤の注射によって引き起こされるが、場合によっては経口投与などによ
っても起こることがある。
症状は投与後直ちに、あるいは間もなく起こる。たとえば注射の終わらないうちに、
最初の症状を訴える場合もある。ほとんどの症例は、注射後数分以上たって定型的な
症状を起こす。
@ 初期症状として一口内異常感(金属的味覚、しびれ感)、悪心、嘔吐、尿意、便意、
腹痛、全身発赤、全身掻痒感、くしゃみ、喘鳴、冷や汗などで始まる。
A 呼吸器、循環器症状として一胸部圧迫感、胸内苦悶感、絶望感、呼吸促進、喘息発
作、呼吸困難、窒息状態、チアノーゼ、脈拍不整微弱、血圧降下(100mmHg以下)、
時には測定不能となり、ショックに陥る。
B 末期症状として一意識混濁、痙れん、失禁を来たし、数分の間に死の転帰を取るこ
とがある。
C その他のアレルギーとして一紅斑、じん麻疹、じん麻疹様発疹、下痢、疝痛様疼痛
などを来たす場合もある。
以上のように薬剤アレルギーは、急性の循環不全が主症状である。循環血量および静
脈還流の減少、したがって、心拍出量が減少することによって血圧が低下するものと考
えられる。
また、声門や上気道の強度の水腫による呼吸困難、気管支痙れんおよび粘稠な(ネバ
ネバした)多量の分泌物による気道閉塞のために呼吸困難が起こることがある。
[ショックの手当]
ショックに対する治療開始は早いほど救命率がよい。
ショック症状が重篤で意識混濁、血圧測定不能でまったくの虚脱状態に陥ったよう
な場合には、直ちにエアーウェイなどを用いて気道を確保しながら、エピネフリン製
剤(ボスミン0.1%1ミリリットル)の筋注、ついで必要があれば副腎皮質ホルモン製剤
(ソルコーテフ50〜100ミリグラムなど)の注射を行う。
その他エホチール、テラプチクなど強心剤や呼吸促進剤を注射する。また、ショッ
クによる組織無酸素症をできるだけ早く改善するため、酸素吸入を行う。気管内分泌
物が多量の場合は、ゴム管などで分泌物を吸引する必要がある。ショック状態が長引
くような場合は、5%ブドウ糖液かリンゲル液250ミリリットルにエピネフリン製剤(ボスミ
ン0.1%1ミリリットル)を混ぜ、血圧の上昇を注意しながら皮下に徐々に注入する。また
副腎皮質ホルモン剤(ソルコーテフなど)を追加投与する。
軽症の場合、たとえばじん麻疹等でかゆみのあるものに対しては、抗ヒスタミン剤
(ポララミンなど)を投与する。
なお、乙種衛生用品表で、とくにショックの発生に注意しなければならないのは、
バイシリン、ビクシリンであり、サワシリンも注意を要する(いずれもペニシリン系)。
[ショックの予防法]
@ 特異体質者に対する問診
特異体質などと呼ばれている人は、数種類の薬剤に対して即時性アレルギーを起
こす可能性があるので、特に既往の問診をていねいに行なう必要がある。また万一、
ある薬剤でアレルギー反応が起こった場合には、その薬剤名を知らせ、再び同一の
薬剤による治療を受けないように教えることも、予防上重要である。
A 通常の人に対する問診
(a)既往にこれらの薬剤の投与を受けたかどうか、(b)その際のアレルギー反応の有
無、(c)気管支喘息、薬疹、急性じん麻疹などのアレルギー性疾患の有無、などを問
診する必要がある。そしてこれらの症状があった者には、当該薬物を避け、他剤
(ペニシリン系製剤の場合は、他の系統の抗生剤)を使用する。
そのほか、前述した手当に用いるエピネフリン製剤(ボスミン)、副腎皮質ホル
モン剤(ソルコーテフ)、エホチール、テラプチク、エアウェイ、酸素および酸素
吸入器(装置)など緊急時に即応できるよう、整備しておくことは大切なことであ
る。
